2024年7月27日の午前2時30分(日本時間)、パリ五輪がついに幕を開ける。街はこの日を待ち望んでいたかのように静まり返り、集中しているかのようだ。
4年前、東京で56年ぶりに開催されるはずだったオリンピックは、突如襲ったコロナウイルスによって延期を余儀なくされた。誰も予想していなかった事態が、世界的スポーツイベント「オリンピック」に危機的状況をもたらした。
アスリートを含め、オリンピック関係者たちの夢は閉ざされ、失意の中で暗い未来を見つめていた。しかし、そんな中でも希望を捨てなかった者たちがいた。絶望の中、粘り強く努力を続けた結果、2021年7月、東京五輪2020はようやく開会式を迎えたのだった。
1年間、葛藤と戦い続けた選手たちの姿は、メダルこそないが光り輝いていたものがある。重圧と不安を抱えながらも、日本代表選手たちは、現実を受け止め、前例のない挑戦に立ち向かっていた。そして、過去最多58個のメダルを手にした。彼らの涙や笑顔が日本中に溢れ、その光景は国民の記憶に刻まれただろう。
あれから3年。世界の熱気がフランスの首都パリに集まっている。
サッカーW杯で過去2度優勝している強国フランスは、地元の期待を背負いパリ五輪でも優勝を狙う。監督はW杯優勝メンバーのティエル・アンリとなれば、尚更だろう。
日本代表もまた、1968年メキシコ五輪以来のメダル獲得目指している。アテネ五輪から8大会連続出場を果たした彼らは、2024年4月にカタールで開催されたU-23アジアカップで見事優勝。アジアの頂点に立ち、その栄光を胸にパリ五輪に挑む。
- パリ五輪本大会メンバー
- 56年ぶりのメダルを目指す
- オーバーエイジ招集なし
- ストライカーの得点力とメダルの距離
- 本大会で注目したい選手
大会中は、民間放送でも日本代表の試合を放送する予定。試合時間が日本の深夜のため、グループ予選から寝不足になる国民も多いだろう。しかし、56年ぶりのメダル獲得に向けて、毎試合パリにエールを送り続けたい。
パリ五輪本大会メンバー18人+バックアップメンバー4人を発表
2024年7月3日、U-23男子サッカー日本代表の大岩監督が、パリ五輪本大会のメンバーを発表した。
選ばれた18人+4人のメンバーに期待が高まる一方、4月のU-23アジアカップで活躍した松木久生(FC東京)や山田楓喜(東京ヴェルディ)が外れたことに驚く声もある。しかし、この布陣が最強であることを信じ、彼らのパリ五輪での戦いを見守りたい。
メンバーは海外組と国内組がバランスよく選出されている。
監督が信頼している18人+4人の選手たちがどんな戦いをするのか楽しみです!
U-23男子サッカー日本代表!56年ぶりのメダル獲得を目指す
サッカーファンなら誰しもが、1968年メキシコ五輪以来のメダル獲得を期待しているだろう。当時の日本は、絶対的エースストライカー釜本邦茂の活躍で銅メダルを手にした。それ以来、日本男子サッカーはオリンピックでのメダルが遠い夢となっていた。
メキシコ五輪、銅メダルを賭けた戦いで釜本の2ゴールが日本を歓喜に導いた。彼は大会最多7ゴールで得点王にも輝いている。だが、その後日本は6大会連続で本大会への出場を逃し、オリンピックという大舞台からしばらく姿を消してしまっていた。
20年以上の時が流れ、日本サッカー界もプロ化とともに進化し、Jリーグが開幕。サッカーの環境が整い、大物助っ人外国人を呼び、レベルが着実にあがっていった。そしてついに、U-23男子サッカー日本代表は28年ぶりにアトランタ五輪で世界に戻ってきた。しかし、世界の壁は高くグループステージ突破の夢は叶わなかった。
1979年世代は黄金世代と呼ばれ、稲本潤一や高原直泰、中田浩二、本山雅志などが挑んだシドニー五輪、ロンドン五輪の4位、東京五輪でも4位とメダルにはあと一歩手が届かなかった。
今回のパリ五輪メンバーは、直前のU-23アジアカップでチャンピオンに輝き、過去に劣らず実力は申し分ない。オーバーエイジ招集はないが、今度こそ、悲願のメダル獲得を期待したい。
過去7大会オーバーエイジ招集なしでグループ予選を突破した大会は一度もない
今回のメンバー選出では、オーバーエイジ招集はない。過去のデータを元にするとグループステージ突破できるかどうか心配である。
オーバーエイジとは、U-23という経験少ない若手選手だけで乗り越えるのがむずかしい状況やチームのウィークポイントを補うなどのために24歳以上の選手を最大3名招集できる仕組みである。
ちなみに、過去7大会でオーバーエイジ招集なしで戦った大会は、アトランタ五輪と北京五輪の2大会のみである。
いずれもグループステージで敗退している。データがすべて正しいわけではないが、一つの参考として違う視点から大会を楽しむのもいいだろう。
同じグループステージには、パラグアイ・マリ・イスラエルがいる。当然、気を抜ける試合は一つもないだろう。
オーバーエイジ招集なしに加えて、U-23アジアカップで活躍した松木玖生や山田楓喜が選ばれていない。しかし、新たに斉藤光毅(オランダ1部・スパルタ)と三戸舜介(オランダ1部・スパルタ)が加わり、U-23日本代表にどんな化学反応をもたらすか期待が高まる。
ストライカーの得点力がメダルまでの距離
日本が56年越しのメダルを手にするには、エースストライカーの得点力が鍵となる。過去、大会得点王を輩出した国はほとんどが3位以上の成績を収めているからだ。
今回のU-23男子日本代表のエースストライカーと期待されるのは、細谷真大(柏レイソル)だろう。A代表経験もあり、自身のクラブでもエースストライカーとして活躍している。
しかし、今シーズンの細谷は決して満足できるプレーとはいえない。JリーグやU-23アジアカップでも結果を残せていない。
リーグ・大会 | ゴール数 |
---|---|
2024明治安田J1リーグ | 2ゴール(18節終了時点) |
U-23アジアカップ | 2ゴール |
細谷の2024シーズンにおけるスタッツを見てみると、J1リーグ18節終了時点で2ゴールのみ、先日のU-23アジアカップでも6試合で2ゴールという結果に終わっている。日本代表のエースストライカーとしては物足りない。
本人も「五輪に出るためにやってきた思いもある。しっかり結果を残したい」と決意を語っている。
以下は、過去7大会における大会得点王・ゴール数・順位をまとめたものだ。
開催国 | 得点者(国) | ゴール数 | 大会順位 |
---|---|---|---|
アトランタ | エルナン・クレスポ (アルゼンチン) | 6ゴール | 準優勝 |
アトランタ | ベベット (ブラジル) | 6ゴール | 3位 |
シドニー | イバン・サモラーノ (チリ) | 6ゴール | 3位 |
アテネ | カルロス・テべス (アルゼンチン) | 8ゴール | 優勝 |
北京 | ジュゼッペ・ロッシ (イタリア) | 4ゴール | 準決勝敗退 |
ロンドン | レアンドロ・ダミアン (ブラジル) | 6ゴール | 準優勝 |
リオデジャネイロ | セルジュ・ニャブリ (ドイツ) ニルス・ペーターゼン (ドイツ) | 6ゴール | 準優勝 |
東京 | リシャルリソン (ブラジル) | 4ゴール | 優勝 |
大会得点王がチームのメダル獲得に大きく影響していることがわかるだろう。チームが上位成績をおさめるには非常に重要であり、メダル獲得までの距離を表しているといえる。
今大会では、日本のエースストライカーが初の得点王になる歴史的瞬間をぜひ見たい。
パリ五輪で注目したい5人の選手たち
56年ぶりのメダル獲得への期待と合わせて、注目したい5人の日本人選手を紹介しよう。
本来の力を発揮すれば世界でも十分に通用するだろう。
- GK:小久保玲央ブライアン
- DF:大畑歩夢
- DF:高井幸大
- MF:三戸舜介
- FW:細谷真大
大会を通じて大きく化けてくれると期待する。
GK 小久保玲央ブライアン(ポルトガル1部・ベンフィカ)
柏レイソルアカデミー出身。現在はポルトガル1部のベンフィカに所属。
現在、クラブでの出場機会は少ないが、U-23アジアカップで戦ったような活躍を見せれば日本の勝利は間違いない。
今夏、ベルギー1部シントトロイデンへ移籍が浮上しているのも気になるところ。
試合に出場すれば活躍できる才能と実力は十分にある。早い段階で経験値を積ませてあげたい選手の一人でもある。
パリ五輪でメダル獲得に貢献して、自身の存在感をアピールできればキャリアアップも期待できるだろう。
DF 大畑歩夢(J1・浦和レッズ)
サガン鳥栖U-18アカデミー出身の大畑歩夢は、2022年から浦和レッズに所属している。今季スタメン出場は7試合にとどまり、安定した先発は獲得できていない。
しかし、豊富な運動量と攻撃的スタイルという持ち味は、相手にとって嫌な存在になっている。
4月におこなわれたU-23アジアカップ準決勝のイラン戦では、見事な守備から得点シーンを作っている。
DFとして高さはないが、ボール奪取力とトランジションの高さで攻守ともに期待できる選手であることは間違いない。
DF 高井幸大(J1・川崎フロンターレ)
日本屈指の高身長DFとして、J1クラブ川崎フロンターレで活躍している19歳が高井幸大である。
過去の日本代表DFと身長を比較しても高井の高さがどれほどのものか理解できる。
選手名 | 身長 |
---|---|
高井幸大 | 193cm |
立田悠悟 | 191cm |
吉田麻也 | 189cm |
伊藤洋輝 | 188cm |
富安健洋 | 188cm |
中澤佑二 | 187cm |
193cmの高井をCBに置くことで、高さで優位に立つ海外選手にも対抗していきたい。自チームでも安定して先発出場を果たしているため、試合勘などは心配ないだろう。
もう一人のCBやSBとの相性が試合にどう影響してくるか。その視点で試合を見るのも楽しみの一つである。
スピードがあるFWに対してフィジカル面で若干の不安はあるが、チームでカバーしながら相手ストライカーを押さえてくれると期待している。
DF 三戸舜介(オランダ1部・スパルタ)
三戸舜介はJFAアカデミー福島U-15~U-18出身。アルビレックス新潟時代は、切れ味鋭いドリブルで相手DFに突っかけていくシーンからチャンスを作り出していた。
164cmと小柄だが強烈なミドルシュートも得意としているため、ゴールから遠い位置でボールを受けたときでもゴールが十分期待ができる。
2023年にはクラブ初のベストヤングプレイヤー賞を受賞するほどの実力者。
常に世代別代表にも入り、才能・実力ともにパリ五輪でも相手守備陣を切り裂くドリブルを見せてくれ。
DF 細谷真大(J1・柏レイソル)
ペナルティエリア内の小さなスペースでボールを受けるシーンが増えればゴールが期待できる。
細谷はアルゼンチン代表のFWメッシや元ブラジル代表のFWロナウドのように、一人でチャンスメイクできるタイプではない。
だからこそ、U-23アジアカップ準々決勝のカタール戦で見せたようなゴールシーンが細谷を活かす理想形なのだ。
ゴールの嗅覚は超一流で間違いない。
さらに、フィジカルの強さにも注目してほしい。1対1の競り合いやルーズボールの奪い合いに負けない強さを持っている。
まさに強さが出た試合がある。2023年明治安田J1リーグ第11節の湘南ベルマーレ戦。
相手選手DF畑大雅は「あれはやばいっす。一貴さんも早いんですけど、真大は本当に馬力がある」と細谷のフィジカルの強さに驚かされている。
J1リーグとU-23アジアカップでは、思うようなパフォーマンスが出せていないが、パリ五輪グループステージから爆発することを期待したい。
ここまで紹介した5人の選手たちは、U-23という若い年齢だからこそ、何か一つのきっかけで大きく化ける可能性があるだろう。
注目であげた選手のうち「誰か」ではなく「全員」がパリ五輪で大きく化け、メダル獲得という目標を成し遂げて帰国するのを期待している。
他にも、西尾隆矢や藤田譲瑠チマ、荒木遼太郎、藤尾翔太など期待できる選手はたくさんいる。まずは、チーム全員で初陣となる7月25日(木)パラグアイ戦で最高のパフォーマンスでの戦いを期待する。
パリ五輪が終わるまで寝不足の日々が続きそうだが、56年ぶりのメダル獲得の瞬間が見られるのであれば、何も問題はないだろう。ぜひ18人の若きサムライブルーに期待しよう。